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『ゲート ~自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり~』は、『読むべきでない』作品なのか。6つの視点で考えてみた

[2021年6月23日、改題しました]

今期もアニメ作品が出揃って久しいですね。
クールも半分を過ぎて、ちょっと旬を過ぎた感はありますが、今回はその話題。

一つ、変な意味で話題になっている(いた?)作品がありますね。
どれかというと、『ゲート ~自衛隊、彼の地にて斯く戦えり~』。


一応、あらすじ解説から入りますと。

「21世紀のある日、東京、銀座に、突如として『門』が現れた。異世界とこの世界をつなぐそれからなだれ込んできたのは、『剣と魔法の世界の軍勢』よろしく、騎士と竜と化物によって構成された侵略者たちだった。

無辜の一般市民に多大な犠牲が出たものの、警察や自衛隊が組織だった反撃を始めれば、戦力差は圧倒的にこちらの優位であった。『敵』の軍隊を鎮圧した日本政府は、反撃のため、調査のため、利権のため、友好のために、自衛隊を『門』の向こうに送り込む。
隊員たちの中には、銀座の事件における避難誘導で一躍英雄となっていたオタク自衛官、伊丹の姿があった。」

そして、門の向こうの先々で、
自衛隊つえー! 数十人(?)の自衛隊の前に、10万の現地軍が全滅だ!」
自衛隊つえー! 超強くて人間が戦えっこないドラゴンの腕を吹っ飛ばして追い払ったぞ!」
自衛隊すげー! 圧倒的な軍事力を持ってるくせに紳士的だぞ!」
「ニホンの料理すげー!」「ニホンの建築すげー!」「ニホンの文化すげー!」……ってな感じで異世界美女を落としまくる話です。
純化してる自覚はあるけど、大筋は間違ってないはず。

で、それに対する批判というか、違和感というかを主張した人が出てきて話題になっているのが、このまとめ。

2chまとめサイトに転載される際には、「自衛官PTSDにならないのはおかしいという批判」なんて切り取り方で取り上げられてるけど、別にそこまで強くは言ってないんですよね、まとめられてる人。
「死体が転がってる中で、脳天気に萌えだのなんだのしか言ってない自衛官の描写が怖かった」って話です。

私の『ゲート』への評価は
結構好きなところもあるし視聴する作品。ただ、生死や政治に関する描写は所々気持ち悪くて、人には勧められない。
ってとこです。

一体何が「気持ち悪い」と感じているのか、また、私が感じていないとしても、どんなところが欠点たりうるか、考えてみたいと思います。
それぞれの『欠点』には
【俺評価】
・私が主観的に「いいところ」と感じているか「欠点」と感じているか
【好みか質か】
・その欠点は、好みの問題で片づけていいものか、「作品の質」なるものに影響しうるか
の2つの観点で、コメントを付けていきます。
なお、私はアニメ版を視聴するとともに、原作コミックの7巻まで読みました。原作小説は全く読んでいないため、本記事で「原作」という表現があった場合はまずコミック版の話だという点、ご了承ください。
ほんのりと、ネタバレがあります。

1.自衛隊がメインの話である


【俺評価】好き。むしろもっとやれ。
【好みか質か】好みの問題。自衛隊がメインを張る作品に「軍靴の音がー」と唱えるのは勝手ですが、自衛隊をかっこいいと感じる自由はあります。一部左の人には、耐えられない要素でしょうね。
【コメント】
自衛隊のかっこよさ、ってありますよね。
身近であることに由来する親しみ、みたいなのも大きいのでしょうが。

2.主人公が「オタクの、でもエリート的な(?)自衛官」であるというのは、オタク視聴者によって都合が良すぎる


【俺評価】規範? 何それおいしいの? という態度はちょっと鼻につく。アニメ主人公としては、ギリギリ許容範囲か
【好みか質か】好み寄り。ただ、質的に、こういう作品を安っぽいと見なす人はいるでしょう。そういう意見に全面的に反対はしません
【コメント】
主人公、伊丹みたいな奴が身近にいたら、絶対に仲良くはなれないとおもいます。

3.残酷な作品である


【俺評価】あり。見所の一つとすら感じる。
【好みか質か】好み。ただし、「残酷だから嫌い」とする意見は、全面的に認められるべきと感じる。「残酷だから嫌い、だから放映を中止しろ」まで発展したら、認めん。
【コメント】
血が飛び身体が欠損し……という表現は、ショッキングですよね。
私は自衛隊がらみより、イタリカ攻防戦(夜盗化した軍隊が、町の自警団と激闘を繰り広げる)の方が「おもしろさ」を感じました。
アニメではかなりマイルドになっていましたが、「死者を辱めることによる挑発行為」って、かなり心に「来る」んですよ。「絶対、そんな死に方したくねぇ」って。
小山ゆうの『あずみ』でもありました。
捕虜となった鎧武者が、生きたまま裸にされて辱められるの。

見栄も誇りも奪われてた武者の様子は、とても悲しいものでした。
「辱められる」。絶対に実体験したくない日本語ですね。

また、「逃げたくても逃げられない、降りたくても降りられない」という戦争の描写に感情移入すると、日本人で良かったと心底思います。

フィクションとしては定期的に味わっておいた方が、平和への欲求は高まるかもしれません。

4.『政治家』の表現に、明らかな実在人物評価へのバイアスを感じる


【俺評価】ちょっと、やりすぎではないか
【好みか質か】質的問題。「言論の自由」って、どういうものなんだろうね、とも思えてくる。
【コメント】
アニメ未放映部分。
原作では、明らかに社会党の某議員に似せた議員のキャラクターが、あまりにも間のぬけた質問を繰り返す。
「炎龍による死者が出たのは、護衛していた自衛隊が無能だったせいよね?」
「あなたも家族を亡くしたのでしょう? もう自衛隊にはうんざりよね?」
(結局「全力で攻撃できる装備と権限があれば、被害は軽減できたのだ」「龍を追っ払ったって、それだけでとんでもない手柄だよ?」と論破される)
他にも、クレー射撃ローゼンメイデンが得意なあの元首相風のキャラが、やけに格好良く描かれていたり。

ここまであからさまなのはまずいんでないの?
(と思っていたら、なんか野党の無能っぷりは、現実がフィクションに追い付いちゃった感がありますが)
「フィクションなんだからいいじゃん」
「現実とごっちゃにする奴なんかいねぇよ」
という反論があり得ますが、世には程度の低い人がいくらでもいるんです。現実とごっちゃにする奴は、数はともかく、絶対にいます。
そうでなくとも、自分の嫌いな人たちを、フィクションの中でアホに描いて喜ぶって、結構恥ずかしいと思いませんか?

5.ひたすらに、「俺つえー!」


【俺評価】作品のカタルシスの重要なところを占めているが、作品の「幼稚さ」でもある
【好みか質か】内容の「高尚さ」に関わる質的問題。ただし、娯楽作品なんだからこういう観点を無視して楽しんだっていい
【コメント】
冒頭にも書いたとおり、この作品は「自衛隊すげー」「日本すげー」でできています。
よっぽどのことがない限り、門の向こうの人々は、日本に対する驚き役として登場します。一人の登場人物が、日本のいろんなところに驚きます。
テルマエ・ロマエ』も、「古代ローマ人に、日本人が風呂のすばらしさ(ウン千年のハンデあり)を見せつけて悦に入る」という、見方によっては相当「大人げない」作品でしたが、あっちはコメディです。

こっちは大まじめにやってます。
そしてルシウス(テルマエ・ロマエの主人公)と違い、日本人に感銘を与える現地人はいません。
戦闘ヘリが敵を圧倒するシーンの感想は、「うん、やっぱり、正義の名の下にする弱いものいじめは最高に楽しいな」でした。

6.「現代日本人にとっての人の死」が、あまりにも軽すぎる


【俺評価】本作品の、最大の欠点と考える
【好みか質か】 質的問題。心理状態に関する考証が、さすがに雑なのではないか
【コメント】
冒頭に挙げていたTogetterでも、問題にしていた部分です。
あの世界の自衛隊は、敵を10万人ほど殺してるんです。
でも、描写されてる中で、敵兵を悼む言動はまるでありませんでした。
あの自衛官たちは
・敵軍の死者を悼む
・人間同士の殺し合い(殺すこと、殺される可能性)自体に、自衛官がビビる
という描写が、本格的に皆無です。絶無です。
冒頭の「10万人虐殺」に全くのノーリアクションであるのは、どこか描写を見落としたのではないかとページを戻してしまったくらいです。
人型のものを虐殺して、それに対する反応が皆無(強靱な精神を持った主人公が、ではなくて、組織のどっちを見ても)というのは、さすがにおかしいでしょう。
ヘリからは、戦意喪失して逃げまどう敵兵を、ワルキューレの騎行を流しながら大喜びで虐殺してますし。
じつは、前述の野党議員も、「大量の敵兵を殺した」ことは問題にしていません。これは作者の頭から、こういう感性がスコンと抜けていたのだと推測しています。

これは、ネットで見かけた擁護意見の一部に反論しておきます。

・作者は元自衛官だ。ケチ付けるような輩と違ってリアルを知ってるんだ。
自衛隊に、実戦を経験し、ウン万人の敵兵を殺した経験を積んだ元自衛官はいないとおもうよ?

・エルフが出てくる異世界にいくマンガで、リアリティとかww
→おまえは二度と「熱膨張って知ってるか?」とか、「ジェバンニが一晩でやってくれました」とか、いつの間にか惚れてるヒロインとかに文句言うなよ? あと、「この作品、兵器描写がリアルでおもしろい」ってのもなしだ。

[asin:4088736214:detail]

特に後者の意見は、作劇に関わったことのある人間として非常に腹が立ったので、いつか触れるかもしれません。
フィクションつくる時、どれだけ苦労して「説得力」を出そうとしてると思ってるんだよぅ。

こんな感じで、あらが結構目に付く作品だと思ってます。
好きかといわれればまぁ、好きなんだけど。
思いは複雑です。

前々から書きたかった記事な割に雑な原稿になってしまいましたが、健全な議論(こき下ろしあいでない)なら歓迎なので、コメントいただければうれしいです。
(今井士郎)

※2017/1/16追記
そろそろ、議論も出尽くしてるはずですので、コメントに対する今井からの返信は、この辺でストップしようと思います。
特別に反論・賛同したくなる意見があった場合を除き、本記事へのコメントには原則返信しなくなる予定ですので、ご了承ください。
※追記ここまで

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