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人は、損得でしか動かない
「人は、損得でしか動かない。例外はない」と言うと、ものすごい反発を受けそうな気がします。
しかし、これは真実です。
カネのことしか考えていないがめつい人間も、信仰や信念に全てを捧げる聖人も、例外はありません。
「お金で動かない人」の存在は、反証になるか
私の主張に対して反例を挙げる人がいるとしたら、「一銭の得にもならない行為をする人」の話をするのではないでしょうか。
ただ、私の言う「損得」は「金銭的な損得」には限りません。この場合の「得をする」とは精神的な満足感を得ること*1です。あらゆることが「損得」になり得ます。
お金以外では、どんな「得」を求めているのか
人は「金銭的には損をする」行動に、どんな「得」を求めているのか。いくつか例を考えてみましょう。
慈善事業に、多額の金銭や労力を投入する例
慈善事業にお金や労力を投入することは、表面的には「損」です。お金や労力は、自分のために使った方が「得」なはずです。では、どうして慈善事業を行う人が存在して、慈善事業が存続しているのでしょうか。
金銭的に得をする場合
もしかしたら、その慈善事業は「金銭的に得」なのかもしれません。
企業だったら「クリーンなイメージを作ること」、個人だったら「ボランティアで努力してきました!」と就職等々に有利に働くこと。慈善事業はこんな結果に結びつきえますし、イメージアップで慈善事業以上の収益を得られるのであれば、慈善事業が「金銭的な得」に結びつくことになります。
モノによってはもっとストレートに、「慈善事業に見えて、支援者からお金を巻き上げる」なんて形の「慈善事業」も存在するでしょう。
精神的に得をする
では、事前活動をする人が全員「お金目当て」かと言えば、それは違うでしょう。
「事業の対象となる人に喜んでもらえること」「正しいことをしているという満足感」「信仰心を満たせる満足感」あたりが、金銭的な部分とは異なる「得」する部分です。要は、各種の「満足感」です。
企業活動の場合だと、「純粋に、金銭には結び付かない満足感」を求めるケースはレアでしょうが、「従業員や株主の自己肯定感を高めるために、企業が慈善活動に参加する」あたりは、これに近いでしょう。
「損しない」「見栄を張る」という動機も、いわば「得」のため
「実質的に強制参加のボランティア」「イメージダウンを避けるために、やむを得ずやっている慈善活動」だったら話が変わるかと言うと、そんなことはありません。
「実質的に強制参加のボランティア」に参加するのは、「参加しないことで不利な扱いを受ける」という「損を避ける」方向で相対的に「得をする」ためですし、「イメージダウンを避けるための慈善活動」も、同じく「損を避ける」ためにやっています。
これらも「得するために行動」という原則からは外れていません。
勉強や仕事を「サボる」例
では、「得する行動」が明確なはずなのに、その行動がとれないのはなぜでしょうか。例えば「勉強した方がいい」のに、「仕事をした方がいい」のに、ぐうたらしてしまうようなケースです。
これは、目先の「勉強をする」「仕事をする」ストレス(損)が、将来に予測している「サボったツケ(損)」を上回ってしまっているからです。
「勉強をサボったために、試験に落第するというツケ」の損害を客観的に予測できていたとしても、遠い将来のことなので「想像上の痛み(損)」が「目先のストレス(損)」に負けている状態なんですよね。
「人は損得で動く」と分かったからって何なのさ
これが理屈の上で分かると、「自分」や「他人」の行動を「分析」したり「説得」したりするのに使えます。
自分に使う
「なんでこんな、なんの得もしないことしてるんだろ」と思うことは多いと思います。
そんなとき、自分の「損得(快・不快)」の構造を分析できると、「理屈」で構造を変化させられる可能性が出てきます。
「実際は大したことない損得」が「いつの間にか、行動に大きな影響を及ぼしている」こともあるからです。
ソーシャルゲームが、「つまらないのにやめられない」人
「なんだよこのゲーム! 30連回したのに全然SR出ないじゃないかよ! クソゲー! クソゲー!」とか考えている人が、ソシャゲとガチャをやめられないのはなぜでしょう。本当に「クソゲー」と感じていて、「時間とお金の無駄」とだけ感じているなら、続ける理由はないはずです。
本当に「無駄としか感じていないのに続けてしまう」のであれば、「ソシャゲのない生活に、生活スタイルを変えるストレス(損)」が、「無駄な時間を送る無意識のストレス(損)」を上回っているのかもしれません。
ここまで分析できれば、「無駄なゲーム」を辞めて他の活動に移行できる可能性が高まります。
あるいは、分析の結果として「意識できていなかった、ソシャゲの本当の面白さ」に気づき、より満足感の高いゲーム生活を送れるかもしれません。
休日、眠くないのにベッドから出られない人
「なんで、俺は休日にベッドでごろごろしているんだろう」という疑問から、「『ベッドから立ち上がるストレス』が、見かけ上大きなストレスになっているせいだ。実際は大したストレスじゃないのに」と気づければ、「とりあえずベッドから出てしまえば活動的になれるんだ」「ベッドから出ろ」「ほら、出た!」と、自分を説得できるかもしれません。 ちなみに私は「ベッドから一度出るだけだと、ベッドに入らないで活動的に過ごすストレス(心理的負担)が大きそうだな」と感じたので、ファミレスに出てきてからこの記事を書いています。
「自分は、どう行動するのが一番得かなー」と考えてみるのは、大事なことです。
他人に使う
「損得」の考え方は、自問自答にも使えますが、他人相手にも使えます。
交渉に使う
相手にお願いをするときは、それが極力相手の「得」に結び付くようにするのが、交渉成立の近道です。
交渉成立の対価として「お金」を提示できれば分かりやすいですが、他にも提示できる「得」はいろいろあります。
「お願い」を聞いてもらったら……
- あなたの評価が上がります
- あなたの面倒な仕事の納期を延ばすことができます
- 別の仕事を引き受けてあげられます
- 感謝します
- 出張のお土産をあげます
相手が「得」と感じそうな条件を探して、提示しましょう。
やってもらえたら「感謝します」という条件しか提示できない交渉が続くと、辛いですけどね……。本当は、金銭的な得を提示したい……。
逆に、「損」を突きつけることでも、交渉を進めることができます。
「お願い」を聞いてもらえないと……
- あなたの評価が下がります
- あなたには、もっと面倒な仕事がたくさん降ってきます
- 上司経由で圧力をかけることになります
- 組織間の信頼関係が壊れます
相手に「損」も「得」も提示しない「交渉」があるとしたら、「○○をやって欲しい。聞いても聞かなくても、あなたには何の影響もないけどね」ということになります。そりゃ、聞いてもらえませんよ。
分析に使う
何かの勧誘を受けたとき、相手はどのように「得」をするのか。こう考えると、変な商品の「カモ」にされる危険度がちょっと下がります。
見ず知らずの人から「絶対儲かる投資案件」に「勧誘」されたとします。さて、その人はどのような形で(相対的に)「得」するでしょうか。
「絶対儲かる」なら、人を勧誘している場合ではなく、借金をしてでもそちらに投資すべきです。
見ず知らずの人を勧誘しているということは
投資のリターン期待値<勧誘成功時の報酬
ということです。
ということは、投資した分から、リターン期待値以上の報酬が払われている訳ですし、投資した資金は目減りする可能性が高いですよね。もっとストレートに、詐欺だったりするかもしれません。
得に、金銭のやりとりが発生する何かに勧誘されたとき、「この人は、どういう風に得するのだろう」と考える癖を付けましょう。*2
仕組み作りに使う
賞罰を含んだルールを作るときは、集団が「得」をする行動を個人の「得」に、集団が「損」をする行動を個人の「損」に結びつけられるようにすると、組織がうまくいきます。
分かりやすいのが、法で定められた「刑罰」です。「悪いこと」=「社会にとって好ましくないこと」をした個人が「刑罰(損)」を与えられるようになっています。
「社会にとって好ましいこと」をした人が「得」をして、「好ましくないこと」をした人が損をするような世の中だと、話が早いです。
逆に、「社会的には不可欠なのに、やっても得しないこと」や「社会的には害悪なのに、凄く得してしまうこと」は、社会の仕組みとして調整しなければいけません。
前者の代表例はゴミ収集、後者の代表例は麻薬流通といったところでしょうか。
記事の冒頭で「損得とは、お金の話だけではない」と提示したものの、やはりお金は非常に強力な「損得」の発生装置です。
「社会には○○が必要なのに、○○をする人が足りない。なぜだ」という疑問は、基本的に「もっと、○○に社会からカネを出す」ことで解決します。社会のリソースには限界があるので、無制限にカネを出すわけにはいかないのが辛いところですが。
「○○」には、出産でも、子育てでも、保育士でも、教師でも、優秀な官僚でも、建設会社でも、博士号取得者でも、好きなフレーズを入れましょう。
まとめ
- 人は、損得でしか動かない
- 損得は、金銭だけではない
- 損得を見つめ直すことで、自分をコントロールしやすくなるかも
- 人を動かすためには、相手の損得を考えよう
- 社会を望ましくするためには「望ましい行動」を「得」に結びつけよう
今回のお話は、私がいろいろな話をするときに前提としています。覚えておいてもらえると嬉しいです。
(今井士郎)