前回は未読者向けいうことで、徹底的にネタバレを避けた『この空のまもり』感想をお送りしました。
今回は、すでに読んだ方と語り合うくらいのつもりで、大筋から細々した箇所まで、ネタバレ満載で語りたいと思います。
主人公 田中翼という男
登場人物の多くは、ネット上での「アバター」ライクなキャラクターと、「現実」としてのキャラクターを持っています。両方で存在感を出しつつ、両者の垣根が極薄だったのが、主人公・田中翼=田中Pというキャラクターでした。
超一流のハッカー(≠クラッカー)であり、架空軍を巧妙に束ねる優秀な指揮官。
でも、ニート。
なんなんだろう、このキャラ付け。
なんか、モテます。
モテるよー。
モテちゃうよー。
モテモテ だよー。
有能だから有名人だからとか、マスコット的にとかいうより、「異性として」モテまくっています。
翔(登場人物の小学生)のお母さんが田中Pでイタし始めた時には、なんなんだこの時空はと本気で困りました。
ついつい視線のいく『正体探し』
なんか途中から、物語の筋を追うよりも「現実人物」と「アバター」がどのようにリンクするのかというところばかりが気になり始めました。「このキャラは、『中の人』も登場するんだろうか」
「あと、主要キャラと呼べそうな『中の人』候補は……」と。
バーセイバーさんについては、中の人について全然考えていませんでした。
さすがにヒロインがバーセイバーというのは、ちょっと反則じゃないですか? 芝村さん。
なんか、作劇場の都合だけ感じて、全然納得がいきませんでした。
それを言うなら、首相もなかなかですけど。
解答編を見ても、納得がいかない理由
現実とアバターのリンクを示されても「あ-」としか思えなかった一因は、どちらも大して描写されていないから、『同一人物の納得感』が稼げていなかったことでしょう。唯一、翼Pの副官である棘棗(とげなつめ)というキャラだけは、「キャラの結びつきの面白さ」を感じられました。これは、架空軍の影響に振り回される哀れな大学生、大輔君の目から、棘棗さんの現実の姿である「先輩」が積極的に描写されていた点が大きいでしょう。
かなりセクシャルな目でなめ回すように見られていた、しかし強気な「先輩」の姿を、翼Pにデレデレな「棘棗」とつなげるのは、ちょっとした心地よさがありました。
ちょっと下品な心地よさかなとも思いますけどね。
何度考えても、首相の中身とアバターのリンクにはどん引きだよ……。
結構かわいそうに感じた、小学校の先生
工藤という女教師は、かなりかわいそうでした。生徒は懐かず、同僚にも保護者にも敬意は払われず、精神を病んでいく。
最終的には、自分に貼り付けられていた下品きわまりない「タグ」にようやく気づき、精神的にとどめを刺されてしまう、そのまま敵意は男子生徒、翔に向かい……と。
なんだって、あの人はここまでいじめられるのでしょうか。
そして、あのタグを貼り付けたのは、翔の彼女(仮)の女子生徒なのでしょうか。
あの経緯は、スルーしちゃまずい出来事だったと思うんですけどねぇ……。
子供目線では人格者であるかのように描写されていた校長先生も、タグだけ見て笑っていたのでしょうか……?
よきゆめとあしきゆめ
ラストシーンだけは、ジーンときてしまいました。特定のフレーズに反応してしまいました。
良いファンタジーが良い現実と手を携えて、悪いファンタジーと悪い現実と戦いだした。
もしもあなたが、PSゲーム『高機動幻想ガンパレード・マーチ』のファンであったならば、このフレーズを思い出しませんか?
よきゆめとあしきゆめ。
もうね。対になるこの言葉だけで、ちょっとウルっときてしまったりするのです。
このフレーズが使われるシーンは、常にドラマチックだから。
芝村さん、自作の設定という資源は使い倒すスタイルのようです。
おわりに
この記事は、作品を読んだ方に「そうそう!」と言ってもらいたくて書きました。割と悪口になってしまった感もありますが、果たして同意を得られるのでしょうか。
「いや、理解が浅い、ここはこういうことなのだ」
「なんであのシーンが出ないんだ! 一番いいのはあのシーンだろ!」
という指摘がありましたら、コメント欄やツイッターで、是非教えてください。
(今井四郎)
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