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その三段論法、『フリアグネ論法』になってない? 佐川氏証人喚問の評価に見る、論理の破綻

フリアグネ論法』という考え方を思いついた

電撃文庫から発売されている人気ラノベシリーズ『灼眼のシャナ』という作品があります。

先月の国会でのやりとりを見ていて、思い出したことがあったので、記事してみようと思い立ちました。

灼眼のシャナって、どんな作品?

灼眼のシャナ (電撃文庫)

作・高橋弥一郎、イラスト・いとうのいぢによる人気ライトノベルです。

世界から「存在の力」なる力を奪い野望を実現せんとする異世界の住人「紅世の徒(ぐぜのともがら)」と、彼らの横暴を阻止しようとする超能力者集団「フレイムヘイズ」の戦いを描いた作品。 「シャナ」は、ヒロインに与えられた名前です。

小説シリーズ全26巻ほかが発売中です。 非常に簡略化しているので、興味のある人は原作小説かwikipediaを見てください。 どちらも、相当なボリュームですけど……。

かつてから創作の世界には広く存在したキャラ属性が、「ツンデレ」なる概念として名前を得たのは、本作品のツンデレヒロイン「シャナ」が人気を得た頃と同時期だった気がします。 私、小説の途中までしか読んでいないんですよね……。

フリアグネ論法」とは、どんな理論?

理論の名前にしている「フリアグネ」とは、同作品の小説1作目に登場した「紅世の徒」であり、1作目のボスです。 強力なアイテムを多数所持し、多数の「フレイムヘイズ」を返り討ちにしてきました。

そんな彼の強力なアイテムの一つは、魔法の指輪「アズュール」。 フレイムヘイズの特殊能力「炎を操る」力に対して「炎を消し去る結界を張る」アイテムです。おお、能力の真っ向否定。強力ですね。

そんな彼と、我らがヒロイン、シャナが対峙します。シャナはフレイムヘイズとしてはまだ未熟。なんといっても「炎をまだ操れない」という、一般のフレイムヘイズに対するビハインドを持っていたのです。

そんな状態でフリアグネが下した判断は、この通りです。

一件、素直な三段論法です。

しかし、それは大きな誤算でした。

シャナは、どうして「弱い」と言えるのか。 それは、「炎を操れないから」です。炎を操る以外の部分は、他のフレイムヘイズに比べても強力。大きな日本刀「贄殿遮那(にえとののしゃな)」を振り回し、白兵戦能力に長けています。

つまり、シャナは「元々炎を使えない出来損ないであるが、炎以外の能力で充分に強力なフレイムヘイズ」であったため、「普段から炎を使いこなし、フリアグネ戦で炎を封じられたフレイムヘイズ」より、はるかに手強い相手だったのです。

結果として、シャナはフリアグネを追い詰め、勝利します。 当時、高校生だった私は、読んでいて「えー……?」ってなりました。 フリアグネが結構おバカで。

フリアグネ論法」は、どう定義できる?

フリアグネ論法とは、「失敗したパターンの三段論法」です。

三段論法とは、「AはBである」「BはCである」という二つの命題から「よって、AはCである」という命題を導く論法です。 実例としては、こんなのがあります。

論理学入門 (岩波全書)

論理学入門 (岩波全書)

では、フリアグネはどこで間違ってしまったのでしょうか。 もう一度、彼の論理展開を振り返ってみます。

これだけ見ると、自然なんですよね。 なので、ちょっと括弧で補足してみます。

  • 自分は、強力なフレイムヘイズ(「炎を操る超能力」を封じることで)多数葬ってきた。
  • 現在の敵(シャナ)は、(「炎を操る超能力」を持たない点で)これまでのフレイムヘイズより弱い。
  • だから、自分はシャナに簡単に勝てる。

だいぶ、フリアグネがバカっぽく見えてきたんではないでしょうか。 1つめで論じられている「自分の優位性」の意味が、2つめで封じられていることが分かります。

つまり上の例では、命題を簡略的に表現しすぎて、大事な条件を考慮しそこねてしまったために、三段論法に大きな誤りが含まれてしまったのです。

現実にみるフリアグネ論法

「佐川さんが信じられない」と、「安倍首相の疑惑は深まる」のか

ここでやっと、話が現実・現在に戻ります。 この話を書こうとしたのは、国会の証人喚問を見ていて、似たような穴を感じたためです。

財務省官僚である佐川氏が、書類の改ざん問題について証人喚問で証言しました。野党の追求ポイントは、「書類の改ざんに、閣僚の指示や、閣僚への忖度があったのか」という点です。

そして、佐川氏は多くの質問への回答を「刑事訴追の恐れがある」ことを理由に拒否した上で、「首相や閣僚の指示・彼らへの忖度」は明確に否定しました。

この件に関する野党の評価は「疑惑は深まった」でした。

証人喚問によって「疑惑が深まった」と評価する時、このような論立てが行われていると考えられます。

  • 佐川氏は、多くの質問への回答を拒否した
  • 多くの質問への回答を拒否する人間は、信用に値しない
  • よって、佐川氏の証言は信用に値しない(ので、「首相夫妻や閣僚への忖度がなかった」という証言も信用できない。嘘だと推測できる)

しかし、これ、典型的なフリアグネ論法(論点の見落としで、誤った結論を導いている)ではないでしょうか。

見落としの検証

まず、最初の一点、「佐川氏は、多くの質問への回答を拒否した」というのは、*1事実です。

では次の点「多くの質問への回答を拒否する人間は、信用に値しない」というのは、正しいでしょうか? 間違っているとは言いませんが、「雑な論立て」ではあります。 なので、もうちょっと正確に表現してみましょう。

「偽証をすると刑事責任が発生する証人喚問」で、質問への回答を拒否するということは、「真実の究明より、本人の保身を優先させている」と評価することができます。その点から、「多くの質問への回答を拒否する人は、人間的に信用できない」という評価も可能です。

しかし、この「信用できない」は、「証人喚問で嘘をつくと推測される」には直結しません。むしろ反対に、「証人喚問で、嘘だけはつかない」と判断する材料になります。

だって、そうでしょう?

「保身のために、質問への回答を回避する、不誠実な人柄」は、「偽証罪が適用されるリスクを犯してまで、証人喚問の場で嘘をつく」という行為には全く結びつきません。 むしろ、首相夫妻の関与は「否定してもノーリスク(嘘ではない)だから否定した」という解釈しかできません。

「家族を人質に取られていて、嘘をつくしかない状態に追い込まれていた」とか、「嘘をつくよう、首相率いる巨大勢力に脅されていた」と仮定すれば、嘘をつくインセンティブ*2もあったかもしれませんけど。そこを疑いだしたら、キリがありません。首相夫妻がそこまでのパワーを持っているなら、証人喚問で真相究明するのが、そもそも無理でしょう。

証人喚問について、野党が下しうる評価・方針は、大きく分けて2種類です。

  • 佐川氏は「嘘」をついているという評価をして、首相への追及を続ける方針
  • 佐川氏は「多くの情報を伏せた(が、口にした内容は真実をある)」という評価をして、追及対象を財務省に変更する方針

もしも、佐川氏が「嘘をついている」として追及を続けるのであれば、野党には覚悟を持って追及して欲しいものです。人を「嘘つき」呼ばわりするわけですから、「合理的な根拠」が必要ですし、「間違っていたら謝る」覚悟も必要です。

「さんざん追及したけど、『嘘つき』の証拠は何も見つからなかったよ。でも、国をよくするためだったんだから仕方ないよね。さ、次は何を使って首相に退陣を迫ろうかな~」といった態度だけは絶対に認められませんが、高確率で、そうなるんだろうな……。

まとめ

  • 一見正しそうな、でも間違っている三段論法を「フリアグネ論法」と呼んでみた。
  • 証人喚問の「佐川氏は信用できない」から「佐川氏は嘘をついている」という結論を導くのは、フリアグネ論法である。間違っている。
  • 首相夫妻への「疑惑が深まった」と追及を続けるのであれば、明確に「佐川氏は嘘をついている」というスタンスを定め、覚悟を持って追及して欲しい

安倍政権には危惧も覚えているので、野党に「まともに機能して欲しい」というのが、一有権者としての素直な思いです。 (今井士郎)

*1:「多く」という評価を下す場合、どこで線引きするのかという議論の余地はありますが。

*2:嘘をついた方が「得」になる条件。