『フリアグネ論法』という考え方を思いついた
電撃文庫から発売されている人気ラノベシリーズ『灼眼のシャナ』という作品があります。
- 作者: 高橋弥七郎,いとうのいぢ
- 出版社/メーカー: KADOKAWA / アスキー・メディアワークス
- 発売日: 2013/03/29
- メディア: Kindle版
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先月の国会でのやりとりを見ていて、思い出したことがあったので、記事してみようと思い立ちました。
灼眼のシャナって、どんな作品?
作・高橋弥一郎、イラスト・いとうのいぢによる人気ライトノベルです。
世界から「存在の力」なる力を奪い野望を実現せんとする異世界の住人「紅世の徒(ぐぜのともがら)」と、彼らの横暴を阻止しようとする超能力者集団「フレイムヘイズ」の戦いを描いた作品。 「シャナ」は、ヒロインに与えられた名前です。
小説シリーズ全26巻ほかが発売中です。 非常に簡略化しているので、興味のある人は原作小説かwikipediaを見てください。 どちらも、相当なボリュームですけど……。
灼眼のシャナ 文庫 0-22 全23巻 完結セット (電撃文庫)
- 作者: 高橋弥七郎
- 出版社/メーカー: メディアワークス
- 発売日: 2011/10/08
- メディア: 文庫
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かつてから創作の世界には広く存在したキャラ属性が、「ツンデレ」なる概念として名前を得たのは、本作品のツンデレヒロイン「シャナ」が人気を得た頃と同時期だった気がします。 私、小説の途中までしか読んでいないんですよね……。
「フリアグネ論法」とは、どんな理論?
理論の名前にしている「フリアグネ」とは、同作品の小説1作目に登場した「紅世の徒」であり、1作目のボスです。 強力なアイテムを多数所持し、多数の「フレイムヘイズ」を返り討ちにしてきました。
そんな彼の強力なアイテムの一つは、魔法の指輪「アズュール」。 フレイムヘイズの特殊能力「炎を操る」力に対して「炎を消し去る結界を張る」アイテムです。おお、能力の真っ向否定。強力ですね。
そんな彼と、我らがヒロイン、シャナが対峙します。シャナはフレイムヘイズとしてはまだ未熟。なんといっても「炎をまだ操れない」という、一般のフレイムヘイズに対するビハインドを持っていたのです。
そんな状態でフリアグネが下した判断は、この通りです。
一件、素直な三段論法です。
しかし、それは大きな誤算でした。
シャナは、どうして「弱い」と言えるのか。 それは、「炎を操れないから」です。炎を操る以外の部分は、他のフレイムヘイズに比べても強力。大きな日本刀「贄殿遮那(にえとののしゃな)」を振り回し、白兵戦能力に長けています。
つまり、シャナは「元々炎を使えない出来損ないであるが、炎以外の能力で充分に強力なフレイムヘイズ」であったため、「普段から炎を使いこなし、フリアグネ戦で炎を封じられたフレイムヘイズ」より、はるかに手強い相手だったのです。
結果として、シャナはフリアグネを追い詰め、勝利します。 当時、高校生だった私は、読んでいて「えー……?」ってなりました。 フリアグネが結構おバカで。
「フリアグネ論法」は、どう定義できる?
フリアグネ論法とは、「失敗したパターンの三段論法」です。
三段論法とは、「AはBである」「BはCである」という二つの命題から「よって、AはCである」という命題を導く論法です。 実例としては、こんなのがあります。
ビブリア古書堂の事件手帖―栞子さんと奇妙な客人たち (メディアワークス文庫)
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では、フリアグネはどこで間違ってしまったのでしょうか。 もう一度、彼の論理展開を振り返ってみます。
これだけ見ると、自然なんですよね。 なので、ちょっと括弧で補足してみます。
だいぶ、フリアグネがバカっぽく見えてきたんではないでしょうか。 1つめで論じられている「自分の優位性」の意味が、2つめで封じられていることが分かります。
つまり上の例では、命題を簡略的に表現しすぎて、大事な条件を考慮しそこねてしまったために、三段論法に大きな誤りが含まれてしまったのです。
現実にみるフリアグネ論法
「佐川さんが信じられない」と、「安倍首相の疑惑は深まる」のか
ここでやっと、話が現実・現在に戻ります。 この話を書こうとしたのは、国会の証人喚問を見ていて、似たような穴を感じたためです。
元財務省官僚である佐川氏が、書類の改ざん問題について証人喚問で証言しました。野党の追求ポイントは、「書類の改ざんに、閣僚の指示や、閣僚への忖度があったのか」という点です。
そして、佐川氏は多くの質問への回答を「刑事訴追の恐れがある」ことを理由に拒否した上で、「首相や閣僚の指示・彼らへの忖度」は明確に否定しました。
この件に関する野党の評価は「疑惑は深まった」でした。
証人喚問によって「疑惑が深まった」と評価する時、このような論立てが行われていると考えられます。
- 佐川氏は、多くの質問への回答を拒否した
- 多くの質問への回答を拒否する人間は、信用に値しない
- よって、佐川氏の証言は信用に値しない(ので、「首相夫妻や閣僚への忖度がなかった」という証言も信用できない。嘘だと推測できる)
しかし、これ、典型的なフリアグネ論法(論点の見落としで、誤った結論を導いている)ではないでしょうか。
見落としの検証
まず、最初の一点、「佐川氏は、多くの質問への回答を拒否した」というのは、*1事実です。
では次の点「多くの質問への回答を拒否する人間は、信用に値しない」というのは、正しいでしょうか? 間違っているとは言いませんが、「雑な論立て」ではあります。 なので、もうちょっと正確に表現してみましょう。
「偽証をすると刑事責任が発生する証人喚問」で、質問への回答を拒否するということは、「真実の究明より、本人の保身を優先させている」と評価することができます。その点から、「多くの質問への回答を拒否する人は、人間的に信用できない」という評価も可能です。
しかし、この「信用できない」は、「証人喚問で嘘をつくと推測される」には直結しません。むしろ反対に、「証人喚問で、嘘だけはつかない」と判断する材料になります。
だって、そうでしょう?
「保身のために、質問への回答を回避する、不誠実な人柄」は、「偽証罪が適用されるリスクを犯してまで、証人喚問の場で嘘をつく」という行為には全く結びつきません。 むしろ、首相夫妻の関与は「否定してもノーリスク(嘘ではない)だから否定した」という解釈しかできません。
「家族を人質に取られていて、嘘をつくしかない状態に追い込まれていた」とか、「嘘をつくよう、首相率いる巨大勢力に脅されていた」と仮定すれば、嘘をつくインセンティブ*2もあったかもしれませんけど。そこを疑いだしたら、キリがありません。首相夫妻がそこまでのパワーを持っているなら、証人喚問で真相究明するのが、そもそも無理でしょう。
証人喚問について、野党が下しうる評価・方針は、大きく分けて2種類です。
- 佐川氏は「嘘」をついているという評価をして、首相への追及を続ける方針
- 佐川氏は「多くの情報を伏せた(が、口にした内容は真実をある)」という評価をして、追及対象を財務省に変更する方針
もしも、佐川氏が「嘘をついている」として追及を続けるのであれば、野党には覚悟を持って追及して欲しいものです。人を「嘘つき」呼ばわりするわけですから、「合理的な根拠」が必要ですし、「間違っていたら謝る」覚悟も必要です。
「さんざん追及したけど、『嘘つき』の証拠は何も見つからなかったよ。でも、国をよくするためだったんだから仕方ないよね。さ、次は何を使って首相に退陣を迫ろうかな~」といった態度だけは絶対に認められませんが、高確率で、そうなるんだろうな……。
まとめ
- 一見正しそうな、でも間違っている三段論法を「フリアグネ論法」と呼んでみた。
- 証人喚問の「佐川氏は信用できない」から「佐川氏は嘘をついている」という結論を導くのは、フリアグネ論法である。間違っている。
- 首相夫妻への「疑惑が深まった」と追及を続けるのであれば、明確に「佐川氏は嘘をついている」というスタンスを定め、覚悟を持って追及して欲しい
安倍政権には危惧も覚えているので、野党に「まともに機能して欲しい」というのが、一有権者としての素直な思いです。 (今井士郎)
- 作者: 山口貴由
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