先週土曜の一大イベント
この日曜は、記事にもしましたとおり、中世ヨーロッパ研究会を覗いて、剣を振り回してきました。しかし、私にとってより大事イベントは、その前日にありました。
劇団の後輩の結婚式です。
あ、プロじゃないです。
学生時代から、趣味で劇団やってるんです。
費用的には完全な持ち出しで。副業じゃないです。
新婦はスタッフだった優秀な女の子で、学生時代は1年しか同時に在学しなかった割に、卒業してから長いこと世話になっています。
「生活環境がぼっちを誘発する」という記事の原稿を書きながら式場に着くと、
劇団同期の友人夫妻や、後輩の同期たちもすでに着いていました。
さて、クロークに荷物でも預けようかい。
そう動いたところに、彼女がやってきたのです。
遭遇 大場さん(仮名)
「あらあら、お久しぶり~! 手塚(仮名)です~!」おばさんです。
母とあまり変わらないだろう年代の、おばさまでした。
大きな声です。
間に誰も挟むことなく、彼我の距離は1メートルを切る程度。
まっすぐ私を向いています。
つまり、私に話しかけてきています。
……誰だ!?
私は即座に、社会的擬態モードに突入しました。
つまり、こういうことです。
「ああ、どうも、おひさしぶりです!」
おわかりいただけたでしょうか。
そうです。
知っているふりです。
自慢じゃないですが、私は人の顔を覚えるのが苦手です。
これでどれだけ苦労してきたか。
なので、せめてダメージを軽減する手段として、知ったふりをしてやり過ごす修行をしてきたのです。
他にも、名前に確信がもてない人に、最小限のリスクで呼びかける方法や、すれ違う相手が知り合いかどうか自信がないときの、会釈をしてないと言い張れる会釈等、身を守れているんだかいないんだか分からないスキルを磨いてきたのです。
そうやって時間を稼ぎながら、不得意ジャンルで頭をフル回転させます。
分からないのがバレずにその場をやり過ごすか、誰だか思い出すことができれば、私の勝ちです。
頭の中を去来するモノ
彼女は、誰だ?真っ先に思い浮かんだのは、新婦である後輩のお母様という可能性です。
いや、しかし、もう少しおしとやかだった気がするぞ?
……そもそも新婦の姓は手塚(仮)じゃねぇし!
他にも可能性はあるはずだ。
考えろ、考えろ……。
……。
……。
選択肢が、思い浮かばない。
あ、詰んだ。
これはやり過ごすしかない奴だ。
やってきたヒントタイム
こちらの挨拶に、手塚さん(仮)は続けました。「ご結婚なさったそうですね~! おめでとうございます~!」
……いや?
いやいやいや?
してませんけど!?
いっこもそんな話したことないですけど!?
これはあれか?
向こうも人違いして声をかけてきてるパターンですか!?
「いえ、結婚は、してないですね……」あはは
「あら、そうですか?」にこやかなおばさま、めげない。
そして解答タイム
そして、おばさまからの次の質問。これがほぼ、答えでした。
「今度は、いつ公演されるんですか?」
客だ!
お客様だった!!
分かってるふりしててよかった!!
「いや、ぜんぜん、予定がたってなくて。やりたいんですけどね」
ほんとです。
「次の公演、楽しみにしてますよ! いつもファニーで、楽しくなっちゃう!」
ふ、ふぁにー……?
「いつも、シリアスばっかりやってますけどね……」
あはは。愛想笑いは絶やさない。なにせお客様だし。他の劇団と勘違いしてないだろうなお客様。
「そうですか? きっとあなたの演技が面白いから、そう見えちゃうんですよ!」
おばさま、ファニー、譲らないってよ。
まぁいいです。
演技が面白いといわれるのは、お世辞でも悪い気はしませんから。
その後、「今日は晴れてよかったですね」等々、当たり障りのないことを話して、お別れしました。
同期に聞いてみます。
「ねぇ、俺の演技、『ファニー』?」
「ファニーでは、ないなぁ……」
そして脳は思い出す
結婚式の中、通路沿いで楽しそうに拍手をしている手塚さん(仮)を見て、私はようやく思い出したのです。あのお客さん、確かにいた!!
新婦のご両親と、毎度見に来てくれてたおばさまだ!
失礼のないようにがんばって、本当に良かった。
ああいうテンションの高い「なんでも誉めてくれる」感じのお客様って、本当に貴重なんですよね。
やってる側が自信や楽しい気分を持てるから。
いやぁ、良かった良かった。
式も、とてもいい式でした。料理おいしかったし。
(今井士郎)
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