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2巻発売決定記念『数字で救う! 弱小国家(以下略)』は、薄氷を渡る挑戦である

『すうすく』2巻おめでとう!

ツイッターで、このような投稿が流れてきました。

以前、当ブログでも紹介した『数字で救う! 弱小国家 電卓で戦争する方法を求めよ。ただし敵は剣と火薬で武装しているものとする。』の2巻発売決定、鋭意発売準備中という、作者本人の投稿です。

こちらは1巻。2巻は4月発売とのこと。

公式略称として『すうすく』が使われているようですね。なにせ正式タイトルは長いので、活用していきましょう。

前回の紹介記事はこちら。

今回は、2巻の発売記念として、『すうすく』の何が画期的で、難しいかを分析してみます。

『すうすく』は、難しい

『すうすく』は、難しい作品です。
読者に? はい、確かに、普通のライトノベルとは別の脳みそを使いながら読む作品ですから、読者にも難しいです。

しかし、今回扱うのは作者にとっての難しさです。

「数字で弱小国家を使う」というアイデアを、ライトノベルという娯楽形態で結実させることって、ものすごく難しいですよ?

「説得力がない」とか「ご都合主義」なんてレビューも見かけますが、いやいや、このアイデアからこのレベルで娯楽を成立させた作者は、やっぱりすごいと思うのです。

分かる、分からない分類

ものすごく乱暴に言うと、世の中には、2つのことしかありません。

  • 分かること
  • 分からないこと

です。

本当は「分かっているつもりだが間違っていること」とか「分からないと思っているが実は分かっていること」とかいろいろあるんですが……無視します

で、この小説で大事なのは、「数学を使えば分かること」です。 分類で言うと、こうですね。

  • A.数学を使えば分かること
  • B.数学を使っても分からないこと

しかし、世の中には、数学を使わなくても分かることはあります。
もひとつ乱暴に、数学以外の考え方を「直感」と呼んでしまいます。

  • 1.直感的に分かること
  • 2.直感では分からないこと

だとすると、世の中の「分かる、分からない」は4つに分けることができます。

  • A-1.直感的に分かるし、数学を使っても分かること
  • A-2.直感的には分からないが、数学を使ったら分かること
  • B-1.直感的には分かるが、数学を使っても分からないこと
  • B-2.直感的にも分からないし、数学を使っても分からないこと

さて、『すうすく』で解説すべきは、4つのうちどれにあたる問題でしょうか。

『すうすく』が狙うべき「分かる」「分からない」

『すうすく』で解説すべきは、4つのうち、ただ一つです。

A-2.直感的には分からないが、数学を使ったら分かること

なぜか。
順番に見ていきましょう。

A-1.直感的に分かるし、数学を使っても分かること

数学、いみねーなー。
分かりきったことを「数学によると、こんなことが分かるんだよ!」と主張しても、意味ないです。

本当は「当たり前と思っていたことを、数学的にも証明する」というのはとても有意義なことなんですが、数学に興味がない人に「数学ってすげー!!」と思わせる上では意味がありません。

B-1.直感的には分かるが、数学を使っても分からないこと

数学を使っても分からないんですから、数学意味ないですよね。
「ある問題が、数学では分からないと結論づける」ことは有意義なことですが(以下略)

B-2.直感的にも分からないし、数学を使っても分からないこと

意味ないですよね。
結局、何も分からない。
「ある問題が、(以下略)

「唯一の正解」に待ち受ける落とし穴

「数学って、すげー!」という面白さのためには、A-2.直感的には分からないが、数学を使ったら分かることを提示する必要があると分かりました。

しかし、これはエンタメとして成立させるには、非常に厳しい条件です。

数学では分かるが、「直感では分からない」。
つまり、「直感とは異なる結論が導かれる問題」です。

数学に興味がなく、数学を馬鹿にする気満々の人に、「直感と大きく異なる数学的結論」を突きつけたら、どうなるでしょう?

「そんなわけないだろwww」と笑われて終わりです。

「数字なんかでリアルを語れるか」
「だから学者気取りの世間知らずは困る」
まさに、作中の貴族たちのような反応が待っています。

「戦争がこんなにうまくいくわけないだろ、作者のご都合主義www」
と、作者を馬鹿にしたい小説読者も感じてしまうのです。

落とし穴はそれだけじゃない

数学による未来予想を、リアルで披露したなら。
そこには検証の機会があります。

  • 仮説と現実/未来がマッチしていた→数学すげー
  • 仮説と現実/未来は異なっていた→理論または前提データが間違っていた

しかし、フィクションの小説に、検証機会はありません。

作者、主人公の提示する理論は正しいかもしれない。
しかし、本当は間違っているかもしれない
そして、もしかしたら「数学の考証が雑www」と作者を笑い飛ばした読者の立論が間違っているかもしれない

普通に読んで、感想を抱くレベルでは*1、何が「正しい」のか、全然分からないのです。

あなたは大丈夫?

この作品を読んで「くだらない」と思う人も多いでしょう。
しかし本当にあなたは「正しい」のでしょうか?

単に「数学などで現実が分かるか!!」と決めつけている、貴族と同じ行動をとってはいませんか?

……こういう読者をも唸らせなくてはいけない以上、この作品を成立させるのは非常に難しいのです。
2巻が出ると聞いて、かなり驚きましたよ。

なお、読者の側としては、こういう小難しいことを考えるストレスから自由になる方法が、一つあります。

無邪気に、作中キャラに対して数学って、すげー!!と感心してればいいんですよ。 エンタメなんだから、それでいいんです。*2
こんな薄氷の挑戦を、このレベルで成功させている作者には、敬意を覚えます。
(今井士郎)

今井士郎は、『数字で救う! 弱小国家(以下略)』を応援しています。

*1:正しさの「検証」には、ふわっとした感想ではなく「まともな論考」が不可欠です。そして、どれだけ精緻な検証をしても、「現実の作中世界で実験」はできません。

*2:携帯式の短銃が存在する世界にも関わらず、メインウェポンが槍なのがおかしい!? そんなの、「火器があるような戦場では彼我の兵器性能を同等と仮定するのが困難になる」し、「火器がないと非力な主人公の最初の見せ場が作れないから」に決まっているでしょうが!!